漢検1級 27-③に向けて その39  文章題訓練⑫

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<「漢字の学習の大禁忌は作輟なり」・・・「作輟(サクテツ)」:やったりやらなかったりすること・・・>
<漢検1級 27-③に向けて その39>

●寺田寅彦の随筆・・・たまには理科系の文章も味わってみましょう(^^;)
●今回、ちょっと難度は若干易化・・・85%(26点程度)以上はクリアしたいところ・・・・。制限時間は10分ぐらい(^^)

●文章題⑫:次の文章中の傍線(1~10)のカタカナを漢字に直し、傍線(ア~コ)の漢字の読みをひらがなで記せ。(30) 書き2×10 読み1×10
A.「鐘に釁る」(寺田寅彦)
「・・・昔 シナで鐘を鋳た後にこれに牛羊の鮮血を塗ったことが伝えられている。しかしそれがいかなる意味の作業であったかはたしかにはわからないらしい。この事について幸田露伴博士の教えを請うたが、同博士がいろいろシナの書物を(1)ショウリョウされた結果によると(ア)釁るという文字は犠牲の血をもって祭典を挙行するという意味に使われた場合が多いようであるが、しかしとにかく、一書には鐘を鋳た後に羊の血をもってその(2)レッカに塗るという意味に使われているそうである。孟子にはそれが牛の血を塗ることになっているのである。鐘に血を塗るというのは、本来はおそらく犠牲の血によって物を祭り清めるという宗教的の意義しかなかったのであろうが、しかし特に鐘の割れ目に塗るということがあったとすると、それは何かしら割れ目のために生じた鐘の欠点を補正するという意味があったのではないかと疑わせる。そうしないと特に割れ目に塗るという言葉が無意味になってしまうのである。
・・・金属と油脂類との間の吸着力の著しいことは日常の経験からもよく知られている。(3)シンチュウなどのみがいた鏡面を水で完全に(イ)湿すのが困難であるのは、目に見えない油脂の皮膜のためである。
・・・以上のスペキュレーションが多少でも事実に該当するとした時に血液成分中に含まれるいかなる成分が最も有効であるかという問題が起こるが、多くの場合から類推すると、おそらく膠のようなものや脂酸のようなもので COOH 根を有するものが最も有効であろうと考えられる。
 Lubrication に関して油の oiliness と称するものがこの場合の問題に密接な関係をもつであろうと思われる。この減摩油の効力を規定する因子としての oiliness は、ある学者の説では炭水素連鎖の(4)クットウセイ(注)、あるいは連鎖が界面(注)に横臥しうる性質と関連しているとのことであるが、現在の場合でも連鎖が屈伸自在であればあるほど、金属の molecular な空隙に潜入してこれを充填するのに好都合であろうと想像することができる。
 以上は単なるスペキュレーションに過ぎないが近来ますます盛んになった分子物理学上の諸問題と連関して種々興味ある研究題目を暗示する点において多少の意味があろうと思うので本誌の余白を借りて思いついたままをしるした次第である。
 金属と油との境界面については単に lubrication のみでなく、もっといろいろの違った方面の事がらと関係してもっといろいろ研究されてよいように思われるのに、この方面の研究が割合に少ないように見えるのは(5)イカンである。金相学者と界面化学者との協同によってこの方面の研究を進める事ができれば存外有益な効果をあげる事ができそうに思われるのである。
(注)クットウセイ:応力に対して、しなるように曲がることを言う。
(注)界面:二つの物質の境の面。インターフェース。
(昭和八年一月、応用物理)

B.「喫煙四十年」(寺田寅彦)
「はじめて煙草を吸ったのは十五、六歳頃の中学時代であった。自分よりは一つ年上の甥のRが煙草を吸って白い煙を威勢よく両方の鼻の孔から出すのが珍しく羨ましくなったものらしい。その頃同年輩の中学生で喫煙するのはちっとも珍しくなかったし、それに父は非常な愛煙家であったから両親の許可を得るには何の困難もなかった。皮製で財布のような(6)カッコウをした煙草入れに真鍮の(ウ)鉈豆煙管を買ってもらって得意になっていた。それからまた(7)ドウランと云って(エ)桐の木を(オ)刳り抜いて(8)インロウ形にした煙草入れを竹の煙管筒にぶら下げたのを腰に差すことが学生間に流行っていて、(9)ケンカ好きの海南健児の中にはそれを一つの攻防の武器と心得ていたのもあったらしい。とにかくそのドウランも買ってもらって嬉しがっていたようである。
 はじめのうちは煙を咽喉へ入れるとたちまち(カ)噎せかえり、咽喉も鼻の奥も痛んで困った、それよりも閉口したのは船に酔ったように胸が悪くなって吐きそうになった。便所へ入ってしゃがんでいると直ると云われてそれを実行したことはたしかであるが、それがどれだけ利いたかは覚えていない。それから、飯を食うと米の飯が妙に苦くて(キ)脂を嘗めるようであった。全く何一つとして好いことはなかったのに、どうしてそれを我慢してあらゆる困難を克服したか分りかねる。しかしとにかくそれに打勝って平気で鼻の孔から煙を出すようにならないと一人前になれないような気がしたことはたしかである。
 煙草はたしか「極上国分」と赤字を粗末な木版で刷った紙袋入りの刻煙草であったが、勿論国分で刻んだのではなくて近所の煙草屋できざんだものである。天井から竹竿で突張った(10)カンナのようなものでごしりごしりと刻んでいるのが往来から見えていた。考えてみると実に原始的なもので、おそらく煙草の伝来以来そのままの器械であったろうと思われる。
 農夫などにはまだ(ク)燧袋で火を切り出しているのがあった。それが羨ましくなって真似をしたことがあったが、なかなか呼吸が六かしくて結局は両手の指を痛くするだけで十分に目的を達することが出来なかった。神棚の燈明をつけるために使う燧金には大きな木の板片が把手についているし、ほくちも多量にあるから点火しやすいが、喫煙用のは小さい鉄片の頭を指先で抓んで打ちつけ、その火花を石に添えたわずかな(ケ)火口に点じようとするのだから六かしいのである。
 火の消えない吸殻を掌に入れて転がしながら、それで次の一服を吸付けるという芸当も真似をした。この方はそんなに六かしくはなかったが時々はずいぶん痛い思いをしたようである。やはりそれが出来ないと一人前の男になれないような気がしたものらしい。馬鹿げた話であるが、しかしこの馬鹿げた気持がいつまでも抜け切らなかったおかげでこの年まで六かしい学問の修業をつづけて来たかもしれない。
 (コ)羅宇の真中を三本の指先で水平に支えて煙管を鉛直軸のまわりに廻転させるという芸当も出来ないと幅が利かなかった。これも馬鹿げているが、後年器械などいじるための指の訓練にはいくらかなったかもしれない。人差指に雁首を引掛けてぶら下げておいてから指で空中に円を画きながら煙管をプロペラのごとく廻転するという曲芸は遠心力の物理を教わらない前に実験だけは卒業していた。・・・」
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(1)渉猟 (2)裂罅 (3)真鍮 (4)屈撓性 (5)遺憾 (6)恰好 (7)胴乱 (8)印籠 (9)喧嘩(諠譁) (10)鉋 
(ア)ちぬ (イ)うるお (ウ)なたまめ (エ)きり (オ)く (カ)む (キ)やに (ク)ひうちぶくろ (ケ)ほくち (コ)らお(「らう」は訛だがokか) 
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